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「ワールドクラスということ」


キタイ設計株式会社
代表取締役 梶  雅 弘

先般、2014FIFAワールドカップ(W杯)ブラジル大会が開催された。
我が国代表選手も国民の期待を受け、健闘してくれたが、残念ながらグループステージで敗退となった。
優勝国はドイツ。改めて、世界の壁を思い知らされたとお感じになられた方も多いと思う。
しかしながらよく考えてみれば、凄い進歩である。
ドーハの悲劇はサッカーファンでなくても知られている。
アジア最終予選の最終試合。その試合終了間際に同点ゴールを許し、1994FIFA W杯アメリカ大会本戦出場は叶わなかった。20年前までは男子代表はW杯すら出場できなかったのである。
ならば、オリンピック(五輪)ではどうか。
伝説のストライカー釜本選手が活躍して銅メダルを獲得した1968メキシコ五輪以来、2012ロンドン五輪では男子代表は健闘したが、4位と惜しくもメダルには届かなかった。
現在、五輪での男子代表の出場資格はU-23(23才以下)が基本(オーバーエイジ枠も若干ある)であり、世界的には五輪よりもW杯での活躍が期待されている面がある。だから出場する各国のサポーターがあれほど熱狂的になるのである。

実は、我が国のサッカーは既にワールドクラス(世界一流)なのである。
こう書くと驚かれてしまうが、もちろん、男子代表だけではなく、女子代表を含めてなのであるが。
女子代表は世界ランキング3位。
皆さんもご存じのとおり、女子代表の「なでしこジャパン」は、2011FIFA W杯ドイツ大会では決勝戦で、世界ランキング1位の強豪アメリカ相手に優勝を果たし、ロンドン五輪でもプレッシャーの中、期待通りの戦いを見せ、惜しくも優勝は逃したが、銀メダルを得ている。
五輪での女子代表は年齢制限がないいわゆるフル代表である。無論、強いのはフル代表だけではない。リトルなでしこ(17才以下)は、今年コスタリカで開催された2014FIFA W杯で優勝しているし、ヤングなでしこ(20才以下)も我が国で開催された2012FIFA W杯ではベスト4まで勝ち進んでいるのである。
女子は既に各世代がワールドクラスにある。
ロンドン五輪の女子代表で、想い出に残っているシーンがある。
準決勝でのフランス戦。個々の能力が高い相手に対し、終始、相手に攻められながらも組織力で守り、限られたチャンスをものにして勝つことができた。
得点シーンはいずれも宮間選手(キャプテン)のフリーキックから生まれたが、1点目はキーパーがたまたまはじいたところを上手く押し込めた、と思ったらそうでなく、五輪直前に習得した低い弾道のストレートのブレ球(無回転シュート)をわざと蹴っての得点であった。
シュートを決めた大儀見選手は、相手GKは自信を持って前に出てくるので、宮間選手は敢えてブレ球を蹴ってくる。それがこぼれて来るのを狙っていた。
なでしこ達は実にしたたかな戦術で相手に勝ったのである。
そして試合後、キャプテンの宮間選手は負けて座り込むフランス選手と全く同じく地べたに座り膝を突き合わせ会話を交わし相手を称えていた。
W杯で日本が優勝した時も、誰もがあの大勝利に歓喜する中、宮間選手は何よりも先にショックを受けた相手のアメリカ選手に駆け寄り、選手一人ひとりと抱き合い声をかけていた。
相手キーパーは試合後、「宮間選手が歩み寄ってきた時、彼女は喜びをあらわにしていなかった。彼女はアメリカに敬意を表したかったはず。私たちが負けてどれほど傷ついたか分かっていたから。これは本当に日本が尊敬すべき国だということを表している」と振り返っている。

世界一を目指す理由は何か。
2位ではだめなのですかと言った政治家がいたが、どの分野でも本来示すべき力だけではなく、統制がとれた組織力のあるチームで、一人ひとりの分析力と発想力、さらに人格が兼ね備わって、初めて勝利がもたらされるのだと改めて思い知らされた。
まさにワールドクラスである。

女子代表は、2015FIFA W杯カナダ大会にW杯連覇をかけて出場する。
男子代表は4年後のW杯ロシア大会を目指す。支部報が出ているころには新監督も決まっていることであろう。女子代表に負けないワールドクラスの戦いを期待している。