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補償コンサルタント30年生のつぶやき


福田総合コンサルタント(株)
理事 森田 清次

 補償の仕事に就いて31年が過ぎました。自由きままな学生生活を終え、直ぐにこの業界に入ったため、「なんと窮屈な仕事」というのが偽らざる実感でした。  調査対象である建物で日常生活を送っておられるまさにその場へ立ち入らせていただくのだから、カッターシャツにネクタイ着用が当然の調査時の服装でした。夏場はさすがにネクタイはきつく、若い職員には翌年から開襟シャツが認められたものの、上のひとは相変わらずきちっとした服装で作業をしていました。
 他人の大切な財産の評価にかかわるのだから、補償を受ける人から信用されることが条件であり、いい加減な調査員との悪い印象をもたれないようにと常に言いきかされていました。  来る日も来る日も調査に明け暮れ、「補償」という仕事が少しわかってきたとき、補償コンサルタントに求められるのは、①専門的な能力と ②豊富な経験 であり、これらを有していることで被補償者に信用されるようになると確信するにいたりました。
 今は亡き当社の先代社長が「自分のように髪の毛が白くなってはじめて住民に信頼されるコンサルタントになれる。」と言っていたのを思い出します。経験のない、しかも知識のみで専門的な能力(実力)に欠ける若い調査員が、一日も早く第一線で仕事をしたいと希望し、そのため、外からみただけで比較的簡単に住民の信用を獲得できればと焦っていた時期がありました。
 特に事業損失に係る調査では、被害意識の強い住民に対して調査の結果を説明しても、納得してもらえないことがしばしば起こりました。日照阻害における日陰時間の計算結果を示すと、費用負担の対象とならない住民からは、建物の配置等測量内容への不信不満を強力に主張されました。また、工損や欠陥調査における施工内容の妥当性を判定した際、住民の思いと異なることもあり感情的な反発を受けることも多々ありました。こんなときは、自分としては誠実に対応し適切な判断をしているのに、どうして納得してもらえないのか真剣に悩んだものです。
 しかしよくよく考えてみると、実際には自分の知識だけを振り回しているようで、コンサルタントとして相手方の信用、信頼を獲得できていないことが原因であったような気がします。
 そこで補償コンサルタントとして信用されるために、当時(昭和55年頃)補償業務管理士の資格がまだなかったため、補償業務に関連する国家資格を取得することが近道だと考えるようになり、一級建築士と測量士の資格取得を目標としました。建築士の受検には実務経験も必要ですが審査は比較的簡単で、学科と製図の試験に受かれば資格取得できました。一方、測量士は、学校で受講した測量に関する講義の取得単位数に基づき、実際に携わった測量作業(外業・内業)を詳細に記載することで一定の期間を超えたら測量士の資格が得られました。
 建築士は知識重点であり、測量士は実務経験重視により取得できましたが、さすがに不動産鑑定士試験は、広い分野にわたる専門的知識を試験し、長期間の研修講義を受け、さらに不動産鑑定事務所で一定期間実際の業務に携わってはじめて資格が与えられる超難関の国家資格でまったく手が出ませんでした。そういった点では、補償業務管理士試験も実務経験のチェックが厳しく、さらに共通科目の試験の難易度も高いと思われますし、国家資格ではないものの専門的知識と十分な実務経験が必要な資格として認知されていると理解しています。


<参考> 平成17年に発覚した構造計算書偽装問題に関連して、建築士法等の一部改正がなされ(平成20年11月28日施行)建築士試験の見直しのなかで実務経験の要件として、これまでの広い範囲での「建築に関する実務経験」から「設計、工事監理、建築確認、一定の施工等の管理等」設計、工事監理に必要な知識、能力を得られる実務に限定される(「建築士制度見直しの概要について」(国土交通省・新建築士制度普及協議会))とされ、ペーパーのみの審査からより実務能力の審査へと移行していくことになります〔実務経歴の重視〕。
  ただし、建築士法第21条(その他の業務)に、建築士の行う業務のなかに「建築物に関する調査又は鑑定」といった文言があり補償に関する調査がこれに当たるか否かの確認はされていません。


 何はともあれ資格取得作戦は成功したようにも見えましたが、資格を持っていてもそれに伴う専門的能力(実務能力)がなければ、どこかでメッキがはげていくものです。やはり、目の前にある補償の課題について真剣に悩みながらこつこつと解決の道を見つけていくといった、仕事に取り組む姿勢の違いでもって成長の速度が違ってくるように思います。
 被補償者に補償の内容を納得してもらえることが、私たち補償コンサルタントの目指すところであり、そのための根拠付けをきちっと積み上げておくことが大事です。そのために、いま何をしないといけないかを常に考え、それを一生懸命にやること。そのこと自体を楽しみながらできれば、補償の仕事に就けたことがなんとすばらしいことであったか実感できるような気がしています。
 研修委員の立場からすれば、コラムへの投稿のテーマとして「各種法令等の改正」や「継続能力開発制度(CPD:Continuing Professional Development)」等に目を向けるべきとも考えたのですが、補償業界の長引く不況のもとで楽しく仕事をすることができたらとの思いから過去を振り返ってみました。
 心底いまの大変な時期にKYじみたことをいっているのだとの批判もあるでしょうが、これまで補償の仕事に真面目に取り組んできた諸先輩や仲間達の気持ちをおもわずつぶやいてしまったもので、ほんの少しでも希望のあかりがみえることを期待して、軽いきもちで読み流してもらえれば幸いです。