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「補償コンサルタント」の現状


(社)日本補償コンサルタント協会 近畿支部
幹事・補償理論研究委員会委員長 中村 雄一

1.「補償コンサルタント」の現状

 起業者にとって、公共事業における用地事務を取り巻く情勢は、「人々の権利者意識の向上」と、「価値観の多様化」に伴って困難を極めており、昨今はさらに「情報の公開」という時代の趨勢によって、ますます困難さが増しているのが現状です。
 このような社会情勢の中で、我々「補償コンサルタント」の役割は、ますます重要性が増しています。
 起業者が専門家である「補償コンサルタント」を使って補償金の査定をすることは、人事異動等によって能力にばらつきがある起業者の個々の能力を補完し、実務面の作業を外注化することによって行政内部のコスト削減に寄与するとともに、住民から開示請求がなされた場合「情報開示」に耐えうる成果品の提供を通じて、行政が目指すべき「公平性」や「公正性」の確保が保証されることとなります。
 一方、公共事業に協力して補償金を受け取る国民サイドから見れば、精度の高い調査と成果品に基づいて補償金が支払われることは、とりもなおさず「行政サービス」の一環として質の高いサービスを享受することにつながり、国民の福祉の向上に寄与することとなります。
 このように「日本国憲法」が目指している「公共の福祉」と「個人の財産権の不可侵」という相矛盾する理念の達成のために日夜仕事に取り組んでいる我々「補償コンサルタント」の存在及びその活動の社会的意義は大きく、我々が憲法の理念を追求し続ける限り、今後もその能力や価値が社会から認められ、求められ続けるものと思います。

2.司法との関わりについて

 しかし、公共事業のみに依存しているわが業界では、公共事業予算の縮小に伴って、会員は年々厳しい経済環境に身をさらすこととなり、「補償コンサルタント」は特殊かつ高度な技術力を持つ集団であるにもかかわらず、その活動の規模を縮小せざるを得ない状況にあり、会員各社はまさに淘汰の荒波の真っ只中にあると言っても過言ではありません。
 わが業界における唯一の資格である「補償業務管理士」は、国家資格に匹敵する実務経験と能力(相当高度な専門性)が要求される資格であり、受験料・登録料・更新料も国家資格を上回る維持費が必要であるにもかかわらず、国家資格として未だ認定されず、今後もその可能性が少ないのが現状です。
 「補償業務管理士」は、(社)日本補償コンサルタント協会が認定する業界内資格であり、したがって、行政が発注する場合の業者選定の基準として参考とされる程度に止まっておりますので、「一級建築士」や「不動産鑑定士」のような国家資格とは異なり、法的根拠がない、法律によって保護されない資格ということが言えます。
 したがって、一般の国民の皆様の認知度は低く、「補償コンサルタント」の業務内容を説明しご理解いただくことは至難であり、裁判所においても「客観的な第三者機関としての専門家」としての地位は得られていないのが現状です。
 しかし、我々は、利害調整のプロとして行政と住民との間に立って様々な問題解決を目指しその業務を遂行しているのですから、行政のみならず司法にも少し軸足を移し、我々のもつ問題解決能力を活かして官民・民民を問わず、裁判や訴訟案件あるいはADR(法定外紛争解決)についても、今後は積極的に取り組んで行くべきものと思われます。
 特に、不動産や建築工事における紛争事件や建物の瑕疵に関わる事件、ディベロッパーとの紛争事件等は「補償コンサルタント」の専門性が問われる分野であると思われます。
 折しも司法改革が叫ばれ、弁護士の数が増える中にあって、紛争解決手段としての「補償コンサルタント」の社会的ニーズに応えていくことが今後必要ではないかと思われます。