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「南洲翁遺訓の人間学」から


大阪エンジニアリング株式会社
代表取締役 中村 雄一
 前回のアラカルトで、株式会社サンコムの松本社長が「論語読みの論語知らず」ということを書いておられ、これは現在の日本社会が乱れている正に原因を述べておられるのではないかと感じ、松本社長のアラカルトを引き継ぎ、今回も古典からの引用をさせていただきたいと思います。
  私見ですが、西郷南洲について書かれた書物の中で、最も優れているのではないかと思われます「南洲翁遺訓の人間学」(渡邉五郎三郎著、致知出版社)からの引用です。
【通釈】
  人の志というものは、幾度も幾度もつらいことや苦しいめに遭って後、始めて堅固になり定まるものである。
  真の男子たる者は、玉となって砕けることを本懐とし、志を曲げて瓦となっていたずらに生き長らえることを恥とする。
 辛酸をなめることはつらいことですが、西郷さんも2度の島流しに遭って辛酸に耐えた後、この言葉が出てきたものですが、今この市場縮小業界の補償コンの中で耐え忍び、能力の向上・技術力の向上を目指し、ひたすら努力を続けることが、「幾たびか辛酸を歴て志始めて堅し」という結果に結びつくものと信じて努力することが肝要なのでしょう。
【通釈】
 社会の制度やシステムがどのようなものに変わろうとも、それを運用する者は人であるので、そこに人物が得られなければ制度やシステムを活かすことはできない。
  立派な人物を得てはじめて制度やシステムを有効に活用することができるのであるから、「人は第一の宝」と言われるのであり、自分がそのような人間になろうとする心掛けが大事なのである。
 わが国日本においても「リーダー不在」と言われて久しいですが、社会の仕組みやシステムがどのように変わろうとも、立派な人物を得て始めて仕組みやシステムが有効に働くものです。
  会社においても、組織の構成員のために責任の重い損な役回りをあえて享受して、我とわが身を捧げて必死で働く人材は、文字通り「会社の宝」であり、そのような人材なくして組織は成り立たず、会社はそのような人材を育て、評価して、本人もリーダーとしてそのような心得を十分に理解し納得した上で、自らの能力を組織のために迷いなく発揮することができてこそ、素晴らしい組織が形成されるものと思われます。
  何か理想論のように聞こえるかもしれませんが、年々補償業務全体のパイが縮小していくわが業界においては、なおさらのこと、個人的な利己心や甘えは捨てて、仕事をする動機の核心部分では、自分のためだけではなく他人をも思いやる「利他の心」を持ち続け、本音の議論をして、心と心が強い絆で結ばれた人間関係を構築すること、そのような人物のいる職場を作ることが必要です。
  この本の中で著者は「西郷隆盛は、日本の危機に地霊のごとく姿を現わし、心ある日本人に正しい方向を示して静かに立ち去る」と言っていますが、売上が減少し先行きが不透明であるが故に、人間として基本的で最も大切なものを西郷南洲の言葉から感じ取り、これを職場で活かそうと思っています。