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偶然との出会い

株式会社岡本設計事務所 顧問  福原 正志

 広辞苑でタイトルの「偶然」という字の意味を曳いてみると、「何の因果関係もなく、予期しない出来事が起こるさま」と説明がり、「出会い」の意味は、「めぐりあうこと、また川などの合流するところ」との説明があり、特に目新しいことではありません。
 とはいいながらも、自分がこの世に生を受けたこと。少年時代戦争体験をしたこと等々。自分の意志とは無関係な出来事との遭遇が、その後の自分に大きな影響を及ぼしている不思議な絆みたいなものに導かれていることに驚かされます。
 いまから約二十年ほど前でしたが、補償コンサルタント協会からそれまで経験したことのない仕事の相談を受けました。相談の内容は茨城県の霞みが浦の湖が生活排水などで汚染がひどくこれを浄化をするために那珂川の水を水戸市の市街地の地下を通して導水路を建設する。この工事における補償問題です。つまり、個人の敷地の地下深く導水路を建設した場合、地上の住宅・学校建物、また敷地などへの侵害行為に対する財産権への法律的補償です。もう一つは地震などの災害時における導水路の安全性に対する説明責任です。こうした問題に対し、工学的見地から最悪の条件を設定し総合的に判断・解析しその安全性を実証しその後の補償交渉の資料に協力させて頂きました。
 この経験以来、特殊補償物件、補償関連規準の見直しなどで個人的に補償機構などから相談を受けると、微力ながら積極的に対応をさせて頂いていますし、それは技術者として大きな生き甲斐にもなっています。
 この補償業務との出会いは、耐震設計を専門とする私にとって、それまで考えてもみなかった業務との出会いであり、最初のこの導水路の相談の時期が半年ほど前にずれていたら恐らく、お断りしていたであろうし、恐らくその後も補償問題に関わりを持つことも無かったろうと思うと最初の偶然の巡り合わせの不思議さに驚かされます。
 現在、私は和歌山県の岡本設計事務所で働かせて頂いていますが、実はこの社長岡本政仁との「人との出会い」もまた、偶然の賜物です。時は東京オリンピックの頃、場所は元の東京の新宿にあった建設省の建築研究所です。まさに何の因果関係の無い川の合流点のような出会いでしたが、以来四十年近くおつき合いを重ねています。一言で言えば、彼とのめぐり合いは私の乾き切ったずたずたの人生を大変豊かにして下さいました。その中身は紙面の関係で、また別の機会にさせて頂きますが、「偶然の出会い」はどなたにもあるもの、私の場合最近そんなことを考える時間がおおくなりました。